ロンシャン競馬場の歴史は、第二帝政期のフランスにさかのぼる。開設の背景には、パリ市内で行われていた競馬開催の環境改善と、フランス競馬を国際的なスポーツへ発展させようとする動きがあった。
当時、シャン・ド・マルスで開催されていた秋の競馬は、観客や競走馬の増加によって施設の限界を迎えていた。そこで、ド・モルニー公爵らの働きかけもあり、新たな競馬場の建設地としてブローニュの森が選ばれた。
France Galopの公式歴史資料によると、1856年にパリ市が旧ロンシャン修道院の敷地だった土地を競馬振興団体Société d'Encouragementに提供。翌1857年4月27日、ナポレオン3世と皇后ウジェニーが出席するなか、最初の競馬開催が実現した。
初代開催の勝ち馬は「Éclaireur(エクレールール)」。フランス語で先駆者を意味する名前を持つ馬だった。その後、1863年にはパリ大賞典(Grand Prix de Paris)が創設され、ロンシャンはフランス競馬を代表する舞台へ成長していく。
ロンシャン競馬場の歴史年表特に注目したいのが、2015年から2018年にかけて実施された大規模な再整備だ。2015年の凱旋門賞終了翌日から旧施設の解体が始まり、約2年間の工事を経て2018年4月8日に新しいパリロンシャン競馬場がオープンした。
設計を担当したのは、フランス国立図書館などの建築でも知られる建築家ドミニク・ペロー。新スタンドは長さ約160メートルで、現代的な建築デザインと周囲の緑地との調和を重視した施設となった。
つまり、検索されることの多い「2015年改修」は、2015年に改修が完成したという意味ではない。正確には2015年に旧施設の解体・再開発が始まり、2018年にリニューアルが完成したという経緯である。
【コースの特徴】凱旋門賞の芝2400メートルはなぜ難しい?

パリロンシャン競馬場の最大の魅力は、複数の芝コースと起伏に富んだレイアウトにある。単純に直線の長さやスピードだけで勝負が決まる競馬場ではなく、馬の持久力、パワー、折り合い、騎手の判断が総合的に試される。
5種類のコースを持つ大型競馬場France Galopの競馬場紹介によると、パリロンシャンには5種類の芝コースが設けられている。敷地面積は約57ヘクタールで、そのうち約17ヘクタールが芝の競走コースだ。
パリロンシャン競馬場のコースデータ
2,750m
大外回り・大コース2,500m
中コース2,150m
小コース1,400m
新コース1,000m
直線コース57ha
競馬場全体の敷地
5コースのうち4コースは同心円状。右回りで競走が行われる。
この多彩なコース設定によって、短距離から中長距離まで幅広い競走に対応できる。競馬場の収容能力は約5万人とされ、年間を通じて大規模な競馬イベントが開催される。
凱旋門賞で使用される芝2400メートルの難所日本の競馬ファンにとって最も重要なのが、凱旋門賞で使用される芝2,400メートルの外回りコースだ。
JRAのパリロンシャン競馬場コース解説によると、スタート地点はスタンドから見て左奥にある風車付近。スタート直後の約400メートルは平坦だが、その後の向正面では最大2.4%の上り勾配が続く。
3コーナーを過ぎると下り坂に転じ、1,000メートルから1,600メートル付近では約600メートルの間に10メートル下る構造になっている。
そして、ロンシャンを象徴する仕掛けが「フォルスストレート(Fausse Ligne Droite)」だ。フランス語で偽りの直線を意味し、最終直線に入る前に約250メートル続く直線部分を指す。
ここを走り抜けた先に待っているのが、実際のゴールへ向かう平坦な直線。長さは533メートルに及ぶ。
つまり、競走馬は上り坂、下り坂、偽りの直線、そして最後の長い直線という複数の局面を乗り越えなければならない。
高低差は約10メートル。JRAが紹介するコース解説でも、中山競馬場の高低差5.3メートルと比較して、ロンシャンの起伏の大きさが示されている。
この構造が凱旋門賞を難しい競走にしている理由の一つだ。前半から無理にポジションを取りに行けば、坂や最後の直線でスタミナを消耗する。一方で後方に控えすぎれば、長い直線があっても前の馬を捕らえきれない可能性がある。
単純な瞬発力だけではなく、2400メートルを通じたペース配分と持続的な加速力が求められる。日本の競馬場とは異なる適性が必要になる点も、海外遠征を難しくしている。
【凱旋門賞2026】10月4日の結果とカタール凱旋門賞の注目点
2026年の競馬ファンにとって大きな節目となったのが、10月4日にパリロンシャン競馬場で行われた第105回カタール凱旋門賞だ。
開催は10月3日と4日の2日間。世界各国の有力馬や騎手が集まり、競馬場全体が国際的なイベントの舞台となった。
2026年の優勝馬はダリズ(Daryz)France Galopの2026年10月4日付公式レース報告によると、優勝したのはフランス調教馬のダリズ(Daryz)。前年に続く2年連続の凱旋門賞制覇を達成した。
調教師はシャンティイを拠点とするフランシス=アンリ・グラファール、騎手はミカエル・バルザローナ。ダリズはレース前半を後方で待機し、最後の直線で外に持ち出して追い上げる競馬を見せた。
2着にはベイシティローラー(Bay City Roller)、3着にはダイヤモンドネックレス(Diamond Necklace)が入った。勝ち時計は2分27秒11だった。
Qatar Prix de l'Arc de Triomphe
優勝:Daryz(ダリズ)
騎手:Mickaël Barzalona
調教師:Francis-Henri Graffard
2:27.11
勝ち時計
2着:Bay City Roller
3着:Diamond Necklace
4着:Friendly Soul
5着:Kalpana
ダリズの連覇は歴史的な記録でもある。牡馬による連覇は1977年、1978年のアレッジド(Alleged)以来。牝馬のトレヴやエネイブルが連覇を達成したことはあるものの、牡馬による連続優勝は長年実現していなかった。
加えて、ダリズの勝利によってアーガー・ハーン家の凱旋門賞通算優勝回数は9回に伸びた。馬の生産・所有における同家の歴史的な存在感を改めて示す結果となった。
2026年のレースは、単に前年の勝者が再び勝ったというだけではない。長い距離を後方で脚を温存し、最後の直線で進路を選びながら加速するという、ロンシャンのコース特性を生かした勝利だった。
カタール凱旋門賞とは?カタール凱旋門賞は、フランス語で「Qatar Prix de l'Arc de Triomphe」と表記される国際的なG1競走だ。開催地はパリロンシャン競馬場で、毎年10月の第1週末を中心に実施される。
カタールの競馬統括団体であるQatar Racing and Equestrian Club(QREC)とFrance Galopの協力関係のもと、国際的な競馬イベントとして発展してきた。
France Galopの2026年イベント案内では、凱旋門賞は世界各地に中継され、現地には約3万5,000人の観客が集まる規模のイベントとして紹介されている。
凱旋門賞だけでなく、同じ週末には複数のG1競走も組まれる。世界の競走馬や騎手、競馬関係者が集まることから、パリロンシャン競馬場にとって年間最大級の開催となっている。
【2026年開催日程・入場料】通常開催と凱旋門賞では何が違う?
パリロンシャン競馬場は、凱旋門賞の週末だけ開かれる施設ではない。春から秋にかけて平地競走を中心に開催され、一般の観客も競馬を楽しめる。
France Galopが公表した2026年公式開催カレンダーでは、パリロンシャンの開催日は合計27日。4月から10月にかけて、午後開催や薄暮開催が予定された。
2026年の主な開催日
4月
5日・12日・16日・23日
5月
3日・7日・10日・14日・21日・24日・28日
10日:エミレーツ・プール・デッセ
6月
4日・7日・11日・15日・18日
7月
2日・9日・14日
14日:Cygamesグランプリ・ド・パリ
9月
3日・6日・10日・13日
6日:Qatar Arc Trials
10月
3日・4日・13日・18日
3日・4日:カタール凱旋門賞ウィークエンド
午後開催の第1レースは13時30分から14時ごろ、薄暮開催の第1レースは16時から17時15分ごろが目安となる。実際の発走時刻は各開催日の公式プログラムで確認したい。
2026年の主要開催日はすでに終了している。次回の観戦を考える場合は、翌年の新しい開催カレンダーを確認する必要がある。
ロンシャン競馬場の入場料・チケット料金通常開催の入場料は、凱旋門賞のような大型イベントに比べると手頃だ。France Galopの競馬場案内に掲載された通常開催の料金は次のとおり。
| 開催日・イベント | オンライン前売り | 通常料金 |
|---|---|---|
| 平日・土曜日 | 3ユーロ | 5ユーロ |
| 日曜日・祝日 | 4ユーロ | 8ユーロ |
| 家族向け開催 | 5ユーロ | 10ユーロ |
| Qatar Arc Trials | 5ユーロ | 10ユーロ |
一方、2026年の凱旋門賞ウィークエンドは特別料金が設定された。
2026年凱旋門賞のチケット料金
Village de l'Arc
日曜のイベント・アクティビティ中心。観客席側のペサージュには入場不可15€〜
Entrée Générale
一般入場。コースとパドックを観覧
20€〜
Pelouse de l'Arrivée OR
ゴール前の専用エリア
60€〜
Le Sommet de l'Arc
高所から観戦するパッケージ
80€〜
2026年の公式販売ページに掲載された開始価格。販売時期・在庫・券種によって変動する。
注意したいのは、一般入場券とVillage de l'Arcでは入場できるエリアが異なること。単純に最安値だけで選ぶと、希望する場所でレースを見られない場合がある。
2026年のチケット販売は開催終了に伴い終了している。次回の凱旋門賞を観戦する場合は、一般入場券、ゴール前エリア、スタンド席、飲食付きホスピタリティの違いを比較してから購入するのがよい。
【アクセス】パリ16区のブローニュの森へ行く方法
ロンシャン競馬場はパリ西部のブローニュの森に位置する。住所は2 Route des Tribunes, 75016 Paris。行政区分ではパリ16区にあたる。
市街地の中心部にある競馬場とは違い、広大な緑地のなかに設けられているため、地下鉄の駅から改札を出てすぐ到着する施設ではない。バスやイベント時の無料シャトルを組み合わせることが重要だ。
バス241・244を利用する競馬場周辺へのアクセスには、パリの路線バス241番・244番が利用できる。
ただし、ここには観戦者が注意したい情報の食い違いがある。France Galopの競馬場紹介ページでは、241番が「Les Moulins Camping」、244番が「Hippodrome de Longchamp」と案内されている。一方、公式チケットサイトではこの停留所の対応が逆に掲載されている。
そのため、バス番号だけで乗車・下車を判断せず、当日のRATP公式路線案内で進行方向と停留所を照合することが大切だ。競馬場周辺には両方の停留所があるため、停留所名を目的地として検索する方法が確実性を高める。
メトロM1・M10から無料シャトルを利用する地下鉄を使う場合は、次の2駅が主要な乗り換えポイントとなる。
1
メトロ1号線・Porte Maillot駅
ポルト・マイヨー駅。イベント開催時の無料シャトル乗り場がある。
10
メトロ10号線・Porte d'Auteuil駅
ポルト・ドートゥイユ駅。こちらからも無料シャトルを利用できる。
トラムT2・Suresnes Longchamp駅
スュレーヌ・ロンシャン駅。競馬場周辺への別の交通手段として利用できる。
凱旋門賞などの大規模イベントでは、Porte Maillot駅とPorte d'Auteuil駅から競馬場まで無料シャトルが運行される。France Galopの案内では、凱旋門賞開催時には両地点からの送迎が用意され、運行間隔はおおむね20分となっている。
ただし、シャトルの運行はイベントごとに設定される。通常開催日も同じ条件で運行されるとは限らないため、出発前に当該イベントの交通案内を確認したい。
車やタクシーで行く場合車の場合は、France Galopが案内する「Parking Hippodrome ParisLongchamp」を目的地に設定するとよい。北側からはPorte Maillot方面、南側からはPorte Molitor方面などから競馬場へ向かうルートが案内されている。
ただし、凱旋門賞当日は周辺道路の混雑が予想され、駐車場にも限りがある。事前予約が推奨されているため、公共交通機関や無料シャトルの利用も検討したい。
なお、競馬場周辺には自転車用の周回道路があり、来場者向けの無料・安全な駐輪場も整備されている。ブローニュの森をサイクリングしながら訪れる選択肢もある。
【観戦前に知りたいこと】初めてのロンシャン競馬場で失敗しない判断基準
パリロンシャン競馬場は、世界最高峰の競馬を観戦する場所であると同時に、パリの自然や建築、文化的な雰囲気を楽しめる施設でもある。
初めて訪れる場合は、何を目的にするかで開催日を選ぶと満足度が変わる。
通常開催と凱旋門賞、どちらがおすすめ?
通常開催がおすすめの人
- 入場料を抑えたい
- 混雑を避けてゆっくり観戦したい
- フランス競馬の雰囲気を知りたい
- コースやパドックを落ち着いて見たい
凱旋門賞がおすすめの人
- 世界最高峰のG1を現地で見たい
- 国際的な競馬イベントを体験したい
- 大観衆の熱気や演出を楽しみたい
- 特別な観戦体験を重視したい
落ち着いた観戦を優先するなら通常開催、世界的な競馬イベントの雰囲気を味わいたいなら凱旋門賞の週末が向いている。
観戦前に押さえておきたい注意点実際に訪れる際は、次の点も確認しておきたい。
- イベントによって入場券の対象エリアが異なる。
- 凱旋門賞当日は通常開催よりも混雑しやすい。
- 無料シャトルの運行時間はイベント別に確認する。
- バス241・244の停留所案内は公式ページ間で異なるため、RATPの最新案内を優先する。
- ペットはリードを付けていても競馬場内に入れない。
- ベビーカーの持ち込みは可能。
- 自転車利用者は周辺のサイクリング道路に注意する。
また、競馬場内には飲食施設としてBrasserie ParisLongchampがあり、開催日に営業する。レストランの利用には適切な服装が求められ、予約も推奨されている。
初めて競馬場を訪れる人は、競馬のルールや馬券の仕組みを紹介するEasy Racingエリアも活用できる。競馬に詳しくなくても、レースを理解するための入り口が用意されている点は魅力だ。
【プロの結論】ロンシャン競馬場を理解する3つの視点ロンシャン競馬場を深く理解するには、次の3つの視点が欠かせない。
第一に、1857年から続く伝統と2018年の再開発が共存する競馬場であること。歴史的な競馬文化を残しながら、現代の国際イベントに対応できる施設へと進化している。
第二に、芝2400メートルのコースが競走馬の総合力を試す舞台であること。上り坂や下り坂、フォルスストレート、533メートルの最終直線が連続するため、単なるスピード勝負ではない。
第三に、観戦体験は開催日とチケットの選び方で大きく変わること。通常開催は比較的手頃な価格で競馬を楽しめる一方、凱旋門賞は世界中のファンが集まる特別なイベントとなる。
この3点を理解しておけば、単に有名な競馬場を訪れるだけでなく、フランス競馬の歴史やコース設計の意味まで楽しめるはずだ。
【ロンシャン競馬場に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:ロンシャン競馬場はどこにありますか?
A1:フランス・パリ16区のブローニュの森にあります。住所は2 Route des Tribunes, 75016 Parisです。メトロ1号線のPorte Maillot駅、10号線のPorte d'Auteuil駅からイベント時の無料シャトルを利用できます。
Q2:ロンシャン競馬場の凱旋門賞はいつ開催されますか?
A2:2026年は10月4日に開催されました。前日の10月3日にも関連する競走が行われ、2日間のイベントとなりました。2026年の優勝馬はダリズで、前年に続く連覇を達成しています。
Q3:ロンシャン競馬場の入場料はいくらですか?
A3:2026年の通常開催では、平日・土曜日がオンライン前売り3ユーロ、通常5ユーロ、日曜日・祝日は前売り4ユーロ、通常8ユーロでした。凱旋門賞の特別チケットはVillage de l'Arcが15ユーロから、一般入場券が20ユーロからでした。料金はイベントや販売時期によって変わります。
ロンシャン競馬場は、1857年に開設されたフランス競馬の歴史的な施設であり、現在はパリロンシャン競馬場という名称で世界的な競馬イベントを開催している。
2015年に始まった大規模な再開発は2018年に完成。現代的なスタンドとブローニュの森の自然が融合した競馬場へと生まれ変わった。
凱旋門賞で使用される芝2400メートルの外回りコースは、起伏やフォルスストレート、長い最終直線が特徴だ。2026年10月4日の大会ではダリズが歴史的な連覇を達成し、ロンシャンの舞台に新たな記録を刻んだ。
観戦する際は、バス241・244、メトロM1・M10、T2などの交通手段と、イベントごとに異なるシャトル運行を事前に確認したい。入場料も通常開催と凱旋門賞では大きく異なる。
歴史ある競馬場の伝統、世界最高峰の競走、そしてパリならではの自然環境。その3つを一度に体験できることこそ、ロンシャン競馬場が世界中の競馬ファンを惹きつける理由である。
主な参考資料
- France Galop:ParisLongchamp競馬場公式紹介・歴史・施設情報
- France Galop:2026年公式競馬開催カレンダー
- France Galop:2026年カタール凱旋門賞公式結果・イベント案内
- JRA:パリロンシャン競馬場・コース紹介
- RATP:パリ市内バス241・244の路線情報
情報基準日:2026年11月2日