スキルス胃がんの治療では、がんの進行度と切除可能性によって治療戦略が変わります。
治療の中心となるのは、外科手術と薬物療法です。特に、手術でがんを取り除ける可能性がある患者と、腹膜播種などによって切除が難しい患者では、治療の目的が異なります。
2026年の治療情報を理解するうえでは、日本胃癌学会のガイドライン第7版と、同学会が2026年7月に公開したバイオマーカー検査の手引き第3版が重要です。
1.胃全摘術・胃切除術による治療遠隔転移がなく、内視鏡治療で取り除くことが難しい胃がんでは、外科手術が検討されます。
スキルス胃がんでは、胃壁に沿って広範囲に浸潤する性質から、胃の一部分だけでなく、胃全体を切除する胃全摘術が必要になる場合があります。
手術では、次のような処置が検討されます。
- 胃全摘術:胃をすべて切除する。
- 胃亜全摘術:胃の大部分を切除する。
- リンパ節郭清:胃の周囲にあるリンパ節を切除する。
- 消化管再建:食道と小腸などをつなぎ、食べ物の通り道を作り直す。
切除範囲は、がんの位置や広がり、周辺臓器への浸潤などを考慮して決められます。
手術で重要なのは、単に胃の腫瘍を取り除くことではなく、がんを完全に切除できるかどうかです。
国立がん研究センターの治療解説でも、遠隔転移がなく内視鏡治療が難しい胃がんでは、手術が推奨されています。
2.抗がん剤治療と術後補助化学療法手術だけでは目に見えないがん細胞が残っている可能性があります。
そのため、再発リスクを下げる目的で抗がん剤治療を追加することがあります。
代表的なのが術後補助化学療法です。
胃がんの術後病理診断でステージⅡまたはⅢと判断された場合、術後補助化学療法が推奨されています。
治療期間は使用する薬剤によって異なりますが、1年間、あるいは6カ月から1年間の治療が検討されます。
抗がん剤治療には、次のような目的があります。
- 手術後に残っている可能性のある微小ながん細胞を攻撃する。
- 再発リスクを下げる。
- 手術が難しい進行がんの増殖を抑える。
- がんによる症状を軽減する。
薬物療法では、細胞障害性抗がん薬のほか、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も使用されます。
3.術前化学療法はスキルス胃がんに有効なのか術前化学療法とは、手術を行う前に抗がん剤を投与する治療法です。
期待される目的は、腫瘍の縮小や微小転移への対処、手術による完全切除の可能性を高めることです。
しかし、スキルス胃がんに対して術前化学療法を行えば、必ず生存率が改善するというわけではありません。
重要な研究として、日本のJCOG0501試験があります。
この第Ⅲ相試験では、ボールマン4型胃がんと8cm以上の大型3型胃がんを対象に、手術を先に行う方法と、術前にS-1とシスプラチンを組み合わせる方法が比較されました。
3年全生存率は次の結果でした。
- 手術先行群:62.4%
- 術前化学療法群:60.9%
術前化学療法群に有意な生存期間の改善は認められませんでした。
この結果は、スキルス胃がんに対する術前化学療法を一律に実施すればよいわけではないことを示しています。
2026年時点では、より効果的な術前治療を探るJCOG2204などの研究も進められています。FLOT療法とDOS療法を比較する研究もその一つです。
4.2026年の新しい薬物療法とバイオマーカー検査2026年の胃がん治療で大きな変化となっているのが、がんの分子特性に合わせた薬剤選択です。
日本胃癌学会は2026年7月1日、切除不能進行・再発胃がんのバイオマーカー検査の手引き第3版を公開しました。
治療薬の選択に関係する主な検査は次の4種類です。
| 検査項目 | 調べる内容 | 治療との関係 |
|---|---|---|
| HER2 | HER2タンパクの発現など | HER2標的薬 |
| PD-L1 | 免疫関連タンパクの発現 | 免疫チェックポイント阻害薬 |
| CLDN18.2 | CLDN18.2タンパクの発現 | ゾルベツキシマブ |
| MSI/MMR | DNA修復機能の異常 | 免疫療法の選択 |
特に注目されるのが、2026年6月にHER2陰性胃がんの一次治療に適応が追加されたチスレリズマブです。
日本胃癌学会の2026年7月の解説では、RATIONALE-305試験について、化学療法にチスレリズマブを追加した群の全生存期間中央値は15.0カ月、化学療法単独群は12.9カ月と報告されています。
PD-L1の発現状況によって効果の程度に違いがある点も示されました。
ただし、これらは主に切除不能進行・再発胃がんに対する治療選択の情報です。スキルス胃がんの全患者に同じ薬が効くという意味ではありません。
5.MATTERHORN試験から見える今後の可能性2026年の胃がん治療を語るうえで、MATTERHORN試験も注目されます。
これは、切除可能な胃がん・胃食道接合部腺がんを対象に、周術期のFLOT療法へデュルバルマブを追加する治療を検討した国際共同第Ⅲ相試験です。
日本胃癌学会の2026年6月の解説によると、最終解析では3年全生存率が次のようになりました。
- デュルバルマブ+FLOT群:68.6%
- プラセボ+FLOT群:61.9%
全生存期間について統計学的に有意な改善が報告されています。
一方、この試験では腹膜播種や遠隔転移のある患者は対象から除外されていました。また、スキルス胃がんだけを対象にした試験でもありません。
したがって、この結果をそのままステージ4のスキルス胃がんや、すべてのスキルス胃がん患者に当てはめることはできません。
2026年の治療情報を整理すると、次のようになります。
- 医師向け胃癌治療ガイドライン第7版:2025年3月改訂。
- 患者向け胃がん治療ガイドライン:2026年版。
- バイオマーカー検査の手引き:2026年7月、第3版。
- 周術期免疫療法:MATTERHORN試験などの研究成果が治療開発に影響。
新しい薬剤が登場していることは重要ですが、スキルス胃がんに対する治癒率がどの程度改善したかを示す長期データは、今後の研究を待つ必要があります。
【ステージ4・末期】スキルス胃がんの腹膜播種と再発率、余命の考え方

スキルス胃がんで特に注意が必要なのが、腹膜播種です。
腹膜播種とは、がん細胞がおなかの中に広がり、腹膜に転移した状態を指します。
胃の壁を越えてがん細胞が広がり、腹腔内に散らばることで、通常の胃切除だけでは取り除けない状態になる場合があります。
腹膜播種があるとステージ4になる理由胃がんのステージは、がんの深さ、リンパ節転移、遠隔転移などを組み合わせて判断します。
腹膜播種が確認された場合は、ステージ4に分類されます。
腹膜播種が厄介なのは、CT検査だけでは小さな病変や初期の広がりを見つけにくいことです。
そのため、必要に応じて審査腹腔鏡という検査が行われます。
審査腹腔鏡では、全身麻酔のもとで腹腔内を直接観察し、腹膜播種の有無を調べます。腹腔内の洗浄細胞診が行われる場合もあります。
国立がん研究センターの検査解説でも、画像検査で判断が難しい腹膜播種について、審査腹腔鏡が診断に役立つ検査として紹介されています。
ステージ4のスキルス胃がんは完治できないのかステージ4だからといって、全員が同じ経過をたどるわけではありません。
ただし、遠隔転移や腹膜播種がある場合、通常の治癒切除を目的とした手術は原則として適応にならず、全身薬物療法が中心になります。
治療の目的は、がんの進行を抑え、症状を軽くし、生活の質を保ちながら生存期間を延ばすことです。
一方、薬物療法によってがんが大きく縮小し、当初は切除不能だった病変が切除可能になった場合には、コンバージョン手術が検討されることがあります。
これは、薬物療法の効果を確認したうえで、胃や転移巣の切除による治癒を目指す方法です。
ただし、実施できる患者は限られます。抗がん剤が効いたという理由だけで、誰でも手術を受けられるわけではありません。
スキルス胃がんの再発率はどのくらい?スキルス胃がんは、治療後の腹膜再発が大きな問題となります。
特に、手術で肉眼的にがんを取り除けた場合でも、微小ながん細胞が腹腔内に残っている可能性があります。
再発リスクを左右する要素には、次のようなものがあります。
- 手術前のステージ
- 腹膜播種や洗浄細胞診の結果
- リンパ節転移の程度
- 手術後の病理検査結果
- がんの切除断端の状態
- 術後補助化学療法の実施状況
スキルス胃がんの再発率について、すべての患者に適用できる全国一律の数値はありません。
また、胃がん全体の再発率をスキルス胃がんの再発率として引用することも適切ではありません。
国立がん研究センターの情報では、胃がんの再発は手術した部位の周辺だけでなく、肝臓、肺、リンパ節、腹膜などにも起こると説明されています。
スキルス胃がん末期の余命は何カ月?この疑問に対して、すべての患者に共通する余命を示すことはできません。
ステージ4の患者でも、腹膜播種の範囲、腹水の有無、栄養状態、全身状態、バイオマーカー、薬物療法への反応などによって経過が異なります。
特に2026年現在は、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどの検査結果によって薬剤選択の幅が変わっています。
そのため、過去の統計だけから個人の余命を決めつけることはできません。
担当医に確認したいのは、単なる平均余命ではなく、現在の治療がどの程度効いているか、次の治療選択肢があるか、今後どのような症状に注意すべきかという点です。
なお、緩和ケアは治療を諦めた人だけが受けるものではありません。がんと診断された時点から、痛みや吐き気、不安などを軽減するために利用できます。
【胃全摘後の生活】術後経過・食事・再発予防で知っておきたいこと
スキルス胃がんの手術で胃全摘術を受けた場合、治療が終わってからも身体の変化に対応する必要があります。
胃は食べ物を一時的に蓄え、消化液と混ぜながら少しずつ腸へ送り出す役割を持っています。
胃をすべて切除すると、この働きが失われるため、食事の方法や栄養の吸収に変化が生じます。
胃全摘後の術後経過胃全摘後に起こりやすい症状には、次のものがあります。
- 体重減少
- 食後の腹痛や下痢
- ダンピング症候群
- 逆流性食道炎
- 鉄欠乏性貧血
- ビタミンB12不足
- 骨粗しょう症
特にダンピング症候群は、胃の貯留機能がなくなり、食べ物が急速に小腸へ流れ込むことで起こります。
食後すぐに動悸や発汗、めまいなどが起こる早期ダンピングと、食後2~3時間ほど経過してから低血糖症状が出る後期ダンピングがあります。
胃全摘後の食事で意識したいポイント
少量ずつ食べる
1回の食事量を減らし、複数回に分けて栄養を摂取する。
よく噛んでゆっくり食べる
食べ物を十分に噛み、急いで飲み込まない。
栄養不足に注意する
体重や食事量を確認し、必要に応じて栄養士と相談する。
国立がん研究センターによれば、胃切除後に新しい食事方法に慣れるまでには、個人差があるものの数カ月から1年ほどかかることがあります。
胃全摘後はビタミンB12を吸収するために必要な内因子が分泌されなくなるため、長期的な補充が必要になる場合もあります。
手術後の定期検査はいつまで必要?胃がんの手術後は、再発の有無や身体の回復状況を確認するため、定期的な検査が必要です。
国立がん研究センターは、胃がんの手術後について、少なくとも5年間は通院による経過観察が必要と説明しています。
検査の頻度や内容は、ステージ、病理検査の結果、治療内容、患者の状態によって異なります。
5年経過したからといって、その後の健康管理が不要になるわけではありません。栄養状態や貧血、骨の健康なども含めて長期的に管理することが大切です。
【体験談・ブログの読み方】スキルス胃がんを克服した人の情報は信用できる?
「スキルス胃がんを克服した人のブログを読みたい」「胃全摘後に普通の生活へ戻れた人の体験談を知りたい」という検索も少なくありません。
実際に患者や家族が発信する体験談には、医学論文や病院の説明だけでは分からない情報があります。
例えば、次のような内容です。
- 抗がん剤治療中の食欲や体力の変化
- 胃全摘後の食事量や体重の変化
- 手術後の仕事や家庭生活への復帰
- 再発への不安との向き合い方
- 定期検査を受けるときの気持ち
こうした経験は、同じ病気と向き合う人にとって参考になることがあります。
一方、ブログの体験談だけで治療効果を判断することには注意が必要です。
信頼できる体験談を見極める5つのポイント1.診断時のステージが書かれているか
ステージⅡとステージⅣでは、治療方法も予後も大きく異なります。
2.腹膜播種の有無が分かるか
スキルス胃がんでは、腹膜播種の有無が治療方針を左右します。
3.受けた治療が具体的に記載されているか
胃全摘術、術後補助化学療法、術前化学療法、薬剤名などが分かれば、現在の治療との比較がしやすくなります。
4.いつ書かれた情報なのか
胃がん治療は進歩しています。10年前の治療体験と2026年の治療では、薬剤や検査の選択肢が異なる場合があります。
5.経過観察の期間が明確か
「手術が成功した」「抗がん剤が終了した」という報告と、5年以上再発が確認されていないという報告は、意味が異なります。
特に「完治した」というタイトルだけを見て、治療成績を判断しないことが重要です。
患者の体験談は、治療生活を理解するための資料として活用し、医学的な治療効果は臨床試験や公的統計と照らし合わせて考える必要があります。
【プロの結論】スキルス胃がんの治療で本当に確認すべきこと
スキルス胃がんの治療を考える際、最も重要なのは「完治した人がいるか」という情報だけで判断しないことです。
同じスキルス胃がんでも、手術で完全切除できる人と、腹膜播種によって全身薬物療法が必要になる人では、治療戦略がまったく違います。
医療機関で治療方針を確認する際には、次の3点を具体的に聞くことをおすすめします。
第一に、腹膜播種の有無と最終的なステージです。
CT検査だけでなく、必要に応じて審査腹腔鏡や腹腔洗浄細胞診を実施する必要があるか確認します。
第二に、治療の目的と手術の可能性です。
治癒切除を目指す治療なのか、がんの進行を抑える薬物療法なのか、治療の目標を明確にします。
第三に、バイオマーカー検査と治療選択肢です。
2026年の胃がん治療では、HER2、PD-L1、CLDN18.2、MSI/MMRなどの検査結果が薬剤選択に関係します。検査の実施状況や、利用できる治療法を確認することが大切です。
治療の選択肢が複雑な場合は、胃がんを専門とする医師へのセカンドオピニオンも検討できます。
【スキルス胃がんの完治した人】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:スキルス胃がんを完治した人は本当にいますか?
A1:います。スキルス胃がんでも、完全切除が可能な段階で治療を受け、長期間再発せずに経過する患者はいます。ただし、個々の患者の治癒を保証するものではなく、スキルス胃がんの完治者数を示す全国統計もありません。
Q2:スキルス胃がんのステージ4でも完治する可能性はありますか?
A2:ステージ4では、全身薬物療法が基本となります。一部では薬物療法が著効し、コンバージョン手術によって治癒を目指せる場合がありますが、対象となる患者は限られています。
Q3:スキルス胃がんの5年生存率は何%ですか?
A3:スキルス胃がん単独の全国統一の5年生存率は確認できません。参考となる胃がん全体の2018年5年純生存率は64.4%です。病期別の胃がん統計ではステージⅠが92.8%、ステージⅣが6.3%ですが、いずれもスキルス胃がん限定の数字ではありません。
Q4:スキルス胃がんは抗がん剤だけで治りますか?
A4:切除不能進行・再発胃がんでは、抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などが治療の中心です。薬物療法によって長期間病状をコントロールできる場合もありますが、薬物療法だけで完全に治すことは一般に難しいとされています。
Q5:胃全摘すればスキルス胃がんは再発しませんか?
A5:胃をすべて切除しても再発の可能性は残ります。特に腹膜播種や微小転移がある場合には、手術後に再発することがあります。術後補助化学療法と定期的な検査が重要です。
Q6:スキルス胃がんの末期は余命何カ月ですか?
A6:一律の余命はありません。腹膜播種の広がり、全身状態、薬物療法への反応、バイオマーカーなどによって異なります。過去の生存率だけで個人の余命を判断することはできません。
Q7:2026年現在、スキルス胃がんの新しい治療法はありますか?
A7:バイオマーカーに基づく薬物療法や免疫チェックポイント阻害薬の選択肢が広がっています。日本胃癌学会は2026年7月にバイオマーカー検査の手引き第3版を公開しています。また、周術期治療の研究も進行中です。ただし、すべての新しい治療がスキルス胃がんに確立された標準治療というわけではありません。
スキルス胃がんは、胃壁への浸潤や腹膜播種を起こしやすく、治療が難しい病型です。しかし、すべての患者が完治できないわけではありません。
治癒切除が可能な段階で発見された場合には、胃切除術やリンパ節郭清、必要に応じた抗がん剤治療によって長期無再発を目指せます。
一方、ステージ4や腹膜播種がある場合には、薬物療法を中心に治療を進め、患者の状態によってはコンバージョン手術も検討されます。
2026年は、日本胃癌学会のガイドライン第7版に加え、バイオマーカー検査の進歩や免疫療法の選択肢の拡大など、胃がん治療が変化している時期です。
大切なのは、胃がん全体の生存率やインターネット上の体験談だけで将来を決めつけないことです。
スキルス胃がんの治療では、ステージ、腹膜播種の有無、完全切除の可能性、薬物療法への反応を確認することが、治療の見通しを考える出発点になります。
患者本人と家族が治療の選択肢を理解し、専門医と相談しながら、その人に合った治療を選んでいくことが大切です。
主な参考資料:厚生労働省「全国がん登録5年生存率報告」、国立がん研究センター「がん情報サービス」、日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン第7版」「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き第3版」、JCOG胃がんグループ、Japanese Journal of Clinical Oncology(2025年)。