「マトリ」という言葉をニュースやドラマで耳にしたことはあっても、実際にどのような組織で、警察と何が違うのかまで知っている人は多くありません。マトリとは、厚生労働省に所属する国家公務員「麻薬取締官」の通称です。違法薬物の捜査や密売組織の摘発、被疑者の逮捕だけでなく、病院や薬局で使用される医療用麻薬の監視、薬物乱用防止、再乱用防止にも携わっています。
2026年11月現在、麻薬取締部の活動を理解するうえで注目したいのが、大麻事犯の検挙人員が2025年に過去最多の7,120人となったことです。厚生労働省は2026年9月から11月にかけて薬物乱用防止運動を展開し、10月には若年層向けの啓発特設サイトも公開しました。この記事では、マトリの正体、所属組織、捜査権限、警察との違い、採用条件まで、公的資料と2026年の最新情報をもとに解説します。
【基本知識】マトリとは?厚生労働省の麻薬取締官を指す通称

マトリとは、厚生労働省に所属する麻薬取締官を指す通称です。正式な職名は「麻薬取締官」であり、テレビや新聞などでは「マトリ」「麻薬Gメン」といった呼び方が使われています。
マトリの正式名称と所属組織麻薬取締官が所属するのは、厚生労働省の地方支分部局である地方厚生(支)局に設置された「麻薬取締部」です。
麻薬取締部は、全国の地域を担当する専門機関として薬物犯罪の捜査・取締りを行っています。
主な対象となるのは、次のような薬物です。
- 麻薬
- 覚醒剤
- 大麻
- 向精神薬
- あへん
- 危険ドラッグなどの指定薬物
これらの薬物に関係する輸入、輸出、製造、栽培、所持、譲渡、譲受けなどの違法行為を取り締まります。
根拠となる法律は一つではありません。麻薬及び向精神薬取締法、覚醒剤取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、麻薬特例法、医薬品医療機器等法など、複数の法令にまたがっています。
麻薬Gメンとマトリは同じ?一般に、麻薬Gメンとマトリは麻薬取締官を指す呼称として使われています。
ただし、「Gメン」は法律上の正式な職名ではありません。テレビ番組や報道などで、薬物犯罪を専門的に取り締まる捜査官を分かりやすく表現するために使われてきた呼び名です。
また、都道府県に所属する麻薬取締員という別の職種も存在します。厚生労働省の麻薬取締官と都道府県の麻薬取締員は、所属や任命権者が異なるため、混同しないことが大切です。
【組織と仕事内容】マトリは何をする?捜査から医療用麻薬の監視まで
マトリの仕事は、薬物犯罪の摘発だけではありません。
厚生労働省の麻薬取締部が公表している業務は、大きく分けて捜査、鑑定、正規流通する麻薬の監督、国際協力、薬物乱用防止、再乱用防止などです。
1.薬物犯罪の捜査と密売組織の摘発麻薬取締官の中心的な仕事が、薬物犯罪の捜査です。
違法薬物の密売や密輸、製造、所持などに関係する事件について情報を収集し、被疑者の捜査や証拠の収集を行います。
事件によっては、逮捕、取り調べ、関係機関との合同捜査なども担当します。
特に、暴力団や国際的な薬物密売組織などが関係する事件では、薬物の供給経路や組織的な犯罪活動の解明が重要になります。
2.押収薬物の鑑定と科学的分析捜査で押収した物質が何の薬物なのかを科学的に分析するのも、麻薬取締部の重要な業務です。
外見だけでは薬物の種類や成分を確定できないため、専門的な分析機器を使った鑑定が必要になります。
新たな合成薬物や成分が複雑な危険ドラッグなどについても、正確な鑑定結果が捜査や裁判の重要な証拠となります。
麻薬取締部には鑑定部門があり、薬物分析の専門知識を持つ職員が業務を担っています。
3.医療用麻薬の監視・指導意外に知られていないのが、医療現場で使用される麻薬や向精神薬の監視です。
医療用麻薬は、がんの痛みを和らげる鎮痛薬などとして適切に使用される一方、厳格な管理が必要な医薬品でもあります。
そのため、麻薬取締部は病院、診療所、薬局、製薬会社などに対して、次のような監督業務を行っています。
- 麻薬や向精神薬の適正な使用状況の確認
- 保管や管理状況の確認
- 医療機関などへの立入検査
- 製造・流通過程における不正流通の防止
- 関係する免許や許認可事務
つまり、マトリは違法薬物を取り締まるだけでなく、医療に必要な薬が適切に患者へ届けられる流通環境を守る役割も担っています。
4.国際協力と薬物密輸対策薬物犯罪は国内だけで完結するとは限りません。
海外から国内に持ち込まれる薬物や、国境を越えて活動する密売組織への対応には、外国の捜査機関や関係機関との情報交換が欠かせません。
麻薬取締部は国際会議への参加や海外機関との捜査協力などを通じて、国際的な薬物犯罪対策にも取り組んでいます。
5.薬物乱用防止と再乱用防止マトリの役割は、犯罪者を逮捕して終わるわけではありません。
薬物乱用を未然に防ぐ啓発活動や、薬物を再び使用しないための支援にも携わっています。
厚生労働省によると、再乱用防止では、保護観察の付かない執行猶予判決を受けた人などを対象に、関係機関と連携したプログラムを提供しています。
このように、マトリの仕事は薬物犯罪への対応から予防、社会復帰に向けた支援まで幅広く及んでいます。
【徹底比較】マトリと警察の違いは?捜査権限や逮捕権を解説
マトリと警察は、どちらも薬物犯罪を取り締まることができます。
しかし、所属する組織や専門分野、担当する業務には明確な違いがあります。
マトリと警察の基本的な違い最大の違いは、マトリが薬物犯罪に特化した専門機関であることです。
警察は窃盗、詐欺、殺人、暴行、交通犯罪など幅広い犯罪を担当します。一方、マトリは薬物関連法令に基づく犯罪を専門的に捜査します。
| 比較項目 | 麻薬取締官(マトリ) | 警察官 | 麻薬取締員 |
|---|---|---|---|
| 所属 | 厚生労働省 | 警察組織 | 都道府県 |
| 主な組織 | 地方厚生局麻薬取締部 | 都道府県警察など | 都道府県の関係部局 |
| 主な専門分野 | 薬物犯罪 | 一般刑事事件全般 | 薬物犯罪 |
| 捜査権限 | 司法警察員として捜査 | 司法警察員などとして捜査 | 司法警察員として捜査 |
| 逮捕 | 法令と刑事手続きに基づき可能 | 法令と刑事手続きに基づき可能 | 法令と刑事手続きに基づき可能 |
| 指揮監督 | 厚生労働大臣 | 警察組織の指揮系統 | 都道府県知事 |
| 主な特徴 | 薬物犯罪の専門性 | 幅広い犯罪への対応 | 地域に根差した薬物取締り |
この表から分かるように、マトリと警察は競合するだけの関係ではありません。専門性を生かしながら連携して薬物犯罪に対応する関係です。
マトリには逮捕権がある?マトリには逮捕権があります。
麻薬取締官は、刑事訴訟法に基づく司法警察員として職務を行う立場にあります。一般に特別司法警察職員と呼ばれる職種の一つです。
そのため、担当する薬物犯罪について、法律と刑事手続きに従って被疑者を逮捕し、取り調べを行うことができます。
また、捜査に必要な場合には、裁判官の令状に基づく捜索や差押えなども行います。
ただし、逮捕や捜索は自由に実施できるものではありません。刑事訴訟法に定められた要件や手続きに従う必要があります。
マトリは警察より強い権限を持っている?「マトリは警察より権限が強い」という理解は正確ではありません。
両者はそれぞれの法律上の権限と担当分野に基づいて活動しています。
マトリの特徴は、警察より強い権限を持つことではなく、薬物犯罪に関する専門知識と捜査経験を蓄積している点です。
なお、麻薬及び向精神薬取締法第54条では、麻薬取締官と麻薬取締員の任命や職務、司法警察員としての活動について規定しています。同法第55条では、麻薬取締官が所属する地方厚生局の管轄区域外でも、捜査上必要がある場合に職務を行えることが定められています。
【2026年最新】マトリの活動実態と薬物犯罪をめぐる現状
2026年の麻薬取締部の活動を理解するには、国内の薬物犯罪をめぐる状況を確認する必要があります。
特に大麻事犯は、若年層への広がりが大きな課題となっています。
2025年の大麻事犯検挙人員は過去最多の7,120人厚生労働省が2026年9月18日に発表した資料によると、2025年の国内の大麻事犯検挙人員は7,120人となり、過去最多を記録しました。
加えて、検挙人員のうち30歳未満の若年層が7割以上を占めています。
この数字は麻薬取締部だけの検挙実績ではなく、国内の大麻事犯全体に関する統計です。しかし、薬物取締りを担当する関係機関にとって、若年層への対策が重要な課題になっていることを示しています。
2026年9月から11月まで薬物乱用防止運動を実施厚生労働省は、2026年10月1日から11月30日までの2か月間、都道府県と共同で「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」を実施しています。
また、2026年10月13日には、薬物乱用防止を目的とする啓発特設サイトを公開しました。
このサイトでは、次のようなコンテンツが紹介されています。
- 薬物に関する○×クイズ
- 薬物を誘われた際の対処方法
- 大麻のリスクを紹介するコンテンツ
- 判断によって展開が変わるマルチエンディング漫画
従来の啓発ポスターだけに頼るのではなく、若年層が理解しやすいコンテンツを取り入れている点が特徴です。
2026年の活動から見える3つの重要課題2026年の公的資料から読み取れる重要な課題は次の3点です。
第一に、若年層への予防啓発です。
大麻事犯の検挙人員に占める30歳未満の割合が7割を超えているため、学校や地域、インターネットを通じた情報発信が求められています。
第二に、薬物の不正流通対策です。
薬物犯罪は国内外の流通経路が関係する場合もあり、捜査だけでなく、税関や海上保安庁、警察などとの連携も重要になります。
第三に、再乱用防止です。
薬物犯罪を摘発するだけでは、薬物問題の根本的な解決にはつながりません。再び薬物を使用しないための支援や社会復帰に向けた取り組みも必要です。
2026年のマトリの活動は、摘発を中心とする従来のイメージに加え、予防と再乱用防止を組み合わせた総合的な薬物対策として捉える必要があります。
【採用条件】麻薬取締官になるには?学歴・資格・試験を解説
マトリの仕事に興味を持ち、麻薬取締官を目指したいと考える人もいるでしょう。
麻薬取締官は国家公務員であり、一般企業のように自由応募で採用される職種ではありません。公的な採用試験や選考を経て、麻薬取締部に採用される必要があります。
麻薬取締官になるための主なルート基本的には、次の2つの採用ルートがあります。
1.国家公務員採用一般職試験を利用するルート
国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)に最終合格し、麻薬取締部の官庁訪問や採用選考を経て採用される方法です。
2026年度の採用案内では、対象となる試験区分として行政、教養、デジタル・電気・電子が案内されていました。
2.薬剤師資格を利用するルート
薬剤師免許を持つ人や、薬剤師国家試験の合格者などを対象とした薬学系選考採用試験を利用する方法です。
2026年度の薬学系選考採用試験では、1996年4月2日以降に生まれた人で、薬剤師免許を取得している、または取得見込みであることなどが受験条件として定められていました。
ただし、薬剤師国家試験に合格見込みの場合も、採用には薬剤師免許の取得が必要です。
2026年度の採用条件と最新募集情報2026年10月30日更新の麻薬取締部の募集情報では、一般職試験ルートと薬学系選考採用試験の通常募集は終了しています。
一方、新たに注目されるのが、鑑定部門の課長補佐級職員の経験者採用です。
この募集は、薬品分析領域に関する専門的な業務経験を持つ人を対象としたものです。
主な条件は次のとおりです。
- 薬学・理学・農学・工学分野の修士号を取得し、薬品分析関連業務または研究に12年以上従事した人
- 同分野の博士号を取得し、同分野の業務または研究に9年以上従事した人
- 薬学6年制大学を卒業し、薬品分析関連業務または研究に12年以上従事した人
- 薬学4年制、理学、農学、工学分野の学士号を取得し、同分野の業務または研究に14年以上従事した人
募集人数は1名程度で、受付期間は2026年11月5日から11月24日までとされています。採用予定日は原則として2027年4月1日以降です。
これは一般的な新卒採用とは異なる、専門的な分析経験を持つ人材向けの募集です。
採用後はどのような仕事をする?麻薬取締部には、大きく分けて調査総務部門、捜査部門、鑑定部門があります。
採用後は、本人の適性や経験、組織の配置などに応じて担当業務が決まります。
薬剤師としての専門知識を生かす道もあれば、捜査や情報収集、国際協力などに携わる道もあります。
また、麻薬取締官として任命されるには、所定の実務経験や研修などの要件を満たす必要があります。
麻薬取締官に向いている人の特徴麻薬取締官に求められるのは、薬物に関する知識だけではありません。
- 法律や社会問題に強い関心がある
- 正確な情報を分析する能力がある
- 責任感と冷静な判断力を持っている
- チームで協力して仕事を進められる
- 困難な状況でも粘り強く取り組める
- 専門知識を継続的に学ぶ意欲がある
また、採用後は全国転勤が原則とされているため、勤務地の変更に対応できることも考えておきたいポイントです。
【よくある質問】マトリに関する疑問を解決
Q1:マトリとは警察の一種ですか?
A1:マトリは警察組織ではありません。厚生労働省に所属する麻薬取締官の通称です。ただし、薬物犯罪の捜査では司法警察員として警察官と同様に刑事訴訟法に基づく捜査を行います。
Q2:マトリには逮捕権がありますか?
A2:あります。麻薬取締官は司法警察員として、法律と刑事手続きに従って薬物犯罪の被疑者を逮捕し、取り調べを行うことができます。
Q3:マトリと麻薬Gメンは違う職業ですか?
A3:一般的には同じ麻薬取締官を指す呼称です。麻薬Gメンは正式な官職名ではなく、薬物犯罪を専門的に取り締まる捜査官を表す通称です。
Q4:マトリは医療用麻薬も取り締まりますか?
A4:はい。病院、薬局、製薬会社などを対象に、医療用麻薬や向精神薬の適正な使用・保管・流通について監視や指導、立入検査を行っています。
Q5:薬剤師でなければ麻薬取締官になれませんか?
A5:薬剤師でなくても目指せます。国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)を利用する採用ルートがあるためです。薬学系の専門知識を生かす選考採用ルートも用意されています。
Q6:マトリは全国で活動できますか?
A6:原則として所属する地方厚生局の管轄区域内で活動します。ただし、麻薬及び向精神薬取締法第55条により、捜査上必要がある場合には管轄区域外でも職務を行うことができます。
マトリとは、厚生労働省に所属する麻薬取締官の通称です。麻薬Gメンとも呼ばれ、薬物犯罪の捜査や逮捕、鑑定、医療用麻薬の監視などを担当しています。
警察との大きな違いは、薬物犯罪に特化した専門機関であることです。司法警察員として逮捕や取り調べなどを行う権限を持つ一方、警察や税関、海上保安庁などとも連携して活動しています。
2026年は、2025年の大麻事犯検挙人員が過去最多の7,120人となったことを受け、若年層への啓発や薬物乱用防止が大きな課題となっています。
【プロの結論】マトリを理解する3つの視点マトリについて理解するとき、押さえておきたいのは次の3点です。
1. 捜査機関としての役割: 薬物犯罪の摘発や密売組織の解明を担う。
2. 行政機関としての役割: 医療用麻薬の適正な管理と不正流通防止を担う。
3. 社会的な予防機関としての役割: 薬物乱用防止や再乱用防止を通じて、薬物問題の根本的な解決を目指す。
マトリは、単に薬物犯罪者を逮捕する組織ではありません。医療の安全を守り、薬物犯罪を未然に防ぎ、薬物依存からの回復を支援する役割も持っています。
薬物問題が複雑化する2026年以降、麻薬取締部には捜査力だけでなく、科学的な鑑定能力、国際連携、予防啓発、再乱用防止を組み合わせた総合的な対応が求められています。
主な公的根拠資料: 厚生労働省「薬物乱用防止対策について」「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」、地方厚生局麻薬取締部「採用情報」「募集要項」、e-Gov法令検索「麻薬及び向精神薬取締法」、厚生労働省職業情報提供サイト「job tag」。